魚卵に擬態した鉱物の研究

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ステルクララに春一番が吹いた翌朝。前日の高波によって多くのものがステルクララの海岸に漂着していました。グランは暖かい珈琲とどんぐりの粉で焼いたパンケーキを持って、夜明けとともにまずは東の海岸から散策を開始しました。

陽が上り始めて、波頭が魚の鱗のようにキラキラと輝いています。砂浜も白い砂やシーグラスなどに朝陽が反射して、やはりキラキラと輝いていました。河口付近から北へ向かって海岸を歩いていくと一際光が乱舞しているような場処があります。急いで近寄ってみても漂着物などは見当たりません。ただ、海岸の砂にしては大きく丸い粒があたり一面にまき散らかされていました。それはまるで鉱物が魚の卵に擬態しているような粒でした。グランは兄のグリンに見せれば何かわかるかもしれないと、腰に下げた硝子壜に少しだけこの丸い粒を入れて研究所まで持ち帰りました。

採集した時は透明だった粒は夕刻、散策を終えて研究所に戻った頃には砂糖菓子のように白くなっていました。電燈で透かしてみると内部に核のようなものが見えます。
「やはり、何かの卵なのかな」
そう思ったグランは卵の保温器に硝子壜ごと入れてみました。

数日して兄のグランが研究所を訪れ、正体不明の卵を保温器から取り出してみると、卵はとても温かく白い色はさらに白くなっていました。
「これは卵石の一種だね。」
グランは「卵に擬態した鉱物リスト」というタイトルが書かれたノートを鞄から取り出すと「魚卵」の項目を探しました。
「珪石。成分は蛋白石と同じなんだ。核になっているのが別の岩石なので光に透かすと本当の卵の胚のように見えるんだね。保温すると加えた熱量の数倍もの熱を蓄えて半永久的にその熱を保持する……と書いてある。これは寒い日の鉱物採集などでカイロに使えるかもしれないよ。」
そういうとグランはちょっと嬉しそうに砂糖菓子みたいな白い粒を何粒か取り、両ポケットにしまいました。
「あったかいよ。」

2人は保温する温度や時間を何度も実験してみました。その結果、約40度で48時間保温した場合に、カイロとして適切な温度になることをつきとめました。

2人がこの結果を得た頃、ステルクララではもう暖房が要らない季節になっていましたが、グリンとグランは町の人のためにとたくさんの珪石を集めてカイロを作りました。もちろん、あまり売れ行きはよくないようですが、次の冬にはきっとたくさんの人のポケットを温めることでしょう。